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上町しぜんの国保育園
(small pond)

物件名 上町しぜんの国保育園(small pond)
所在地 東京都世田谷区世田谷2−10
主要用途 保育所
発注者 社会福祉法人東香会
用途地域 第一種中高層住居専用地域
構造 鉄筋コンクリート造+木造
階数 地上2階建て
最高高さ 9.290メートル
最高軒高 5.540メートル
前面道路 北側12.36メートル、北東側9.09メートル
敷地面積 770.12平方メートル
建築面積 462.03平方メートル
延床面積 747.86平方メートル
設計期間 2018年4月1日〜2018年4月30日
工事期間 2018年5月1日〜2018年1月31日
担当 中佐昭夫、天野徹平
構造設計 名和研二、下田仁美/NAWAKENJI-M
設備設計 浅野光、池田匠/設備計画
プロデュース 齋藤紘良/しぜんの国保育園園長
施工
家具・サイン ニイハラフクミ/ZUBO UNIT ZERO
遊戯室音響 福岡功訓/Fly sound
受賞 2019年 GOOD DESIGN賞受賞
写真 矢野紀行

「上町しぜんの国保育園(small pond)」は、2014年に竣工した「しぜんの国保育園(small village)」の系列園としてつくられた。

small village では町田市忠生という地域の将来を見越して、様々な世代や文化の人々が集まって交流できる、小さな村のような保育園として設計した。それに対して今回の世田谷では、設計初期段階で地形・歴史・都市計画の成り立ちを調査するフィールドワークを行い、一帯が100年前は河原の雑木林だったこと、雨が流れ込んでくる谷地で前面道路に川が流れている(現在は暗渠)ことなど、昔から親水性の高い土地であることがわかった。また、都市計画上の主要道路ではなく商業地域でもないのに(川だったのが理由と思われるが)道路幅員が広く、昔のままで空の広がりを残した貴重な土地であることがわかった。この場所で子供がのびのびと育つことを、水が湧き出るイメージに重ねつつ、系列園であることもふまえ、small pond というコンセプトが決まった。

設計に大きな方向性を与えた出来事の一つに、横浜市都筑区にある「りんごの木子どもクラブ」という認可外保育所で保育士を務めながら、子供に関わる様々な活動(講師、イベント企画、執筆など)をしてこられた青山誠氏を、社会福祉法人東香会の齋藤紘良理事長が園長として招いたことがあげられる。「本来、保育園はなくてもいい。子どもは自分で育つ力が子どもにはある。地域で群れて育っていける場がないから保育園が必要なだけ」という青山氏の言葉から、今回の保育園の存在価値とは何なのかを考えた結果、「子供を地域で育てる」ことができる場づくりを目指すことにした。

青山氏の保育方法(子供同士のミーティングが特徴的)についてのヒアリング、近隣住民や保育士との対話、それにフィールドワークで得た情報を整理する過程で、まずは保育の質の向上と良好な近隣関係づくりが重要になるとわかった。そのためには、子供や大人が「安心」できる場(=愛着形成の下地)が必要であり、且つ、土・緑・光・風・暑い・寒いといった「自然」と触れ合う機会をつくる必要があると考えた。

「安心」を生むためのデザインとして、近隣との緩衝帯となる建物配置、空の広がりが将来も確保できる園庭配置、歩道の見通しを生む外壁後退のほか、住宅スケールの建物間口や軒高、圧迫感を減らす寄棟屋根を採用している。また、「自然」との多様な接点のデザインとして、保育室毎に異なる光や風を感じられる空間構成、建具を解放すれば屋内外問わず敷地全体で繋がるゾーニング、自然と共存できる耐久性のある素材選定としている。土や水を多用する園庭を屋上にも連続させ、1階はRC造(2階は木造)とし、全体から部分まで、独自の「安心」「自然」を備えた建築を目指した。その環境下で、全国的にも珍しい0〜5歳の全年齢縦割り保育が行なわれている。

建物の全体構成としては、近隣建物からもたらされる影や、近隣住民から建物に対して寄せられたセットバックの要望を、そもそも変形敷地によって生じてしまう光環境や空間形状のばらつきと共に受け入れ、形状的特徴に変換して表現している。そのうえで使い勝手に直結する仕上げや建具は統一して、子供達が安心感を持って敷地を駆け回れるようにしている。また、ホールは保育園内部の利用だけでなく、近隣の老人を迎えて話を聞くといったイベントもできるように設えてある。

建物の部分詳細としては、高耐久フローリングを保育室だけでなくトイレにも使うことで、小さな子供でも怖がらないようにする(床材を切り替えると子供が違和感を覚えるため) / 屋根板金の割付をあえて近隣住宅でも使われているコロニアル屋根の縦横比とし、さらに拡大して、大きな屋根の圧迫感を軽減する錯視効果を持たせる / 園庭で子供が触れる壁は怪我しにくい木板張りとし、危険な場所は登れないように縦張り、それ以外は横張りとする / 縦張り横張りの隙間を調整(道路側は広く、隣地側は狭く)することでプライバシーや地域との距離感を調整する /園庭樹木にはジャム作りができる果樹を選び、枝張りは木登りしやすいものとし、下に柔らかい芝生を敷く / デッキや木板張りは数年かけてゆっくり退色して馴染んでいく無塗装の木材、屋根はメンテナンス不要で経年変化するチタン亜鉛合金を採用する、といった素材選びを含めて表現している。

こういった全体構成と部分詳細が、保育の質の向上と近隣との良好な関係づくりの下地になればと考えた。

たった1年間で、保育園の子供達のコミュニケーション能力は格段に向上し、遊び方も変化する。子供たちが、まさに湧き出る水のように自在に変化することを前提としたときに、その受け皿としての保育園とは本来どうあるべきか、設計者として問い直すきっかけになった。

-中佐昭夫-

 

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